ご挨拶
「世界の旅から生まれた絵本~市川里美の世界~」
生まれ故郷大垣をあとにして、一人でヨーロッパに旅立ったのは21歳の時。それからパリに住んで長い歳月が流れてしまいました。パリの本屋で偶然であった美しい絵本に刺激され、美術を学んだこともないのに自分で絵本創作の仕事を始めて、これまで夢中で描いてきました。振り返ってみると絵本の数は80冊ほどになっていました。現在まで一度も断絶することなく長い期間この仕事を続けてこられたのも、出版社の理解、国内外の読者の方々、応援してくださる故郷の人たち、また人生の旅先で出会った人たちのおかげと、感謝の気持ちでいっぱいです。
いつのときも創作のテーマは、人生のその時々に出会った人びと、生活、自然、動物、花などと常に愛したものだったといえます。日常生活の中であったり、あるいは遠い国に旅しながらそこで思いがけない違った生活をする人びとに出会うとき、その違いゆえに、私を驚かせ、世界は限りなく広く、豊かなものであり、生きとし生きるものは愛しいものだと感じられるのです。そこでしばらく一緒に暮らした人びとのこと、また路上で出会って言葉をかわしただけの子供であっても、心に残ったことは絵本のなかに留めておきたいと思ったものです。
それゆえに、これまで創作してきた絵本は私の歩んできた人生の記録といえるかもしれません。これからも、日常生活の中で、あるいは遠い世界の国に旅しながら出会った愛する世界を絵本のなかに描き続けていきたいと願っています。
これらの絵本を一度整理したいとおもっていた矢先、大垣図書館のホームページのリニューアルの機会に快く承諾いただけ、図書司書さんや出版社の協力を得て、私のふる里の図書館でこのページを実現できたこと、たいへん幸せに思います。
2018年7月 市川里美
里美さんからのメッセージ
新作『ぼくのカキだよ!』によせて
柿の木に思うこと ――市川里美
パリに住んで秋に日本に里帰りするたび、柿の木があちこちでたわわに実をつけている風景が見られます。秋の陽を浴びて真っ赤に輝いているのは、モノトーンになりがちな日本の田舎の風景に、あたかも女の子が口紅をつけたかのような可愛らしさをそえてくれます。子どものころには当たり前のように見ていた風景でも、今あらためて見ると、それは世界でも珍しい日本らしく美しい風景です。柿の絵本をつくってみたいと思ったのは、そのときです。
しかしながら、一冊の絵本にできるようなお話などどこにも見つかりません。はて困ったと思いながら、子どものころの思い出を記憶のなかに探ってみました。
子どものころから、柿とカラスは切っても切れない関係にあると知っていました。柿が色づくやいなや、カラスがあちこちつつきます。賢いカラスは傷んだ柿は早く熟すことを知っていて、数日後に柔らかくなった柿を食べに帰ってくるというわけです。
また、日本では「柿が赤くなると、医者が青くなる」ということわざがあります。柿を食べると、冬にそなえて風邪の予防になると昔の人は言ったのでした。どうやらカラスたちも、そのことに気づいているようです(ちなみに、ヨーロッパにも似たようなことわざがあります。「リンゴを一日一個食べると、医者を遠ざける」というのです。国や果物が違っても同じですね)。
そして、昔の人は渋柿を甘くする方法を考えつきました。お日さまに干すと、それだけであんなに渋い柿が甘くなるなんて、自然の魔法としか考えられません。子どものころ、よく祖母が柿の皮をむいていました。手と大きな包丁のすきまからスルスルと長い皮がでてくるのを目を丸くして眺めていたものです。干柿は、どんなお菓子よりも甘くておいしくて、太陽の味がしました。
田舎では、今も最後の数個の柿は、鳥たちのために木に残しておくという風習があります。鳥たちにおすそわけという、日本の昔の人らしい情とも言えるでしょうか。
あれから時がたち、秋になるとパリの店先でいつも柿を探すのですが、フランスで見かける柿は日本のとは形も色あいも違っています。まして日本で子どものころ味わったあの味に残念ながら出会えることはありません。後々になって世界を旅し、めずらしい美味な果物にも出会うのですが、「いちばん好きな果物は?」ときかれたら、私はためらわずに「柿!」とこたえるでしょう。子どものころ、木からとって食べた新鮮な味はどんな高価な果物にもかえられません。 柿の木は秋が終わると、枯れ木のような姿になって沈黙の世界に入っていきます。たくさんの実をつけていたころの華やかさとはうらはらに、誰もふりかえらないこの時期こそ、柿の木は、もくもくと辛抱強く翌年への準備をすすめているのでしょう。「たいせつなことは、目には見えない」と言ったのは星の王子さまでしたっけ。なるほど、なるほど……。
2024年7月パリにて 市川里美
市川里美の絵本
ぼくのともだちガムーサ - エジプトのおはなし ―
ぼくは、アジーズ。ナイル川のほとりにすんでいる。ぼくの国、エジプトは、ピラミッドでゆうめいだよ。ピラミッドには、4500年もむかしの王さまファラオがぬむっていて、そばにはライオンのからだをしたスフィンクスがすわっている。 […]
しっかりママにつかまって!- ボルネオ島のおはなし ―
ボルネオ島に住む女の子リンバは、森でオランウータンの親子に出会いました。ボンゴとそのママと一緒に森の中で遊びます。でも、ママには心配なことがあるようで・・・
絵本ギャラリー
アフリカへいったくま
【出版社】徳間書店【出版年】1999年
お星さまのいるところ
【出版社】偕成社【出版年月】1988年5月
あかいちょうちょ
出版社:小学館 出版年月:2008年3月
ジブリルのくるま
【出版社】BL出版【出版年月】2012年08月
ドクター・ジョンの動物園
【出版社】偕成社【出版年】1990年07月
じゃがいもアイスクリーム
【出版社】講談社【出版年月】2011年08月
花と私の時間
【出版社】講談社【出版年月】2006年04月
せんせいといっしょ
【出版社】BL出版【出版年月】2013年03月
ぼくのきしゃポッポ―
【出版社】BL出版【出版年月】2012年2月20日
なつめやしのおむこさん
【出版社】偕成社【出版年月】1986年10月