ご挨拶

市川里美のご挨拶

「世界の旅から生まれた絵本~市川里美の世界~」

生まれ故郷大垣をあとにして、一人でヨーロッパに旅立ったのは21歳の時。それからパリに住んで長い歳月が流れてしまいました。パリの本屋で偶然であった美しい絵本に刺激され、美術を学んだこともないのに自分で絵本創作の仕事を始めて、これまで夢中で描いてきました。振り返ってみると絵本の数は80冊ほどになっていました。現在まで一度も断絶することなく長い期間この仕事を続けてこられたのも、出版社の理解、国内外の読者の方々、応援してくださる故郷の人たち、また人生の旅先で出会った人たちのおかげと、感謝の気持ちでいっぱいです。

いつのときも創作のテーマは、人生のその時々に出会った人びと、生活、自然、動物、花などと常に愛したものだったといえます。日常生活の中であったり、あるいは遠い国に旅しながらそこで思いがけない違った生活をする人びとに出会うとき、その違いゆえに、私を驚かせ、世界は限りなく広く、豊かなものであり、生きとし生きるものは愛しいものだと感じられるのです。そこでしばらく一緒に暮らした人びとのこと、また路上で出会って言葉をかわしただけの子供であっても、心に残ったことは絵本のなかに留めておきたいと思ったものです。

それゆえに、これまで創作してきた絵本は私の歩んできた人生の記録といえるかもしれません。これからも、日常生活の中で、あるいは遠い世界の国に旅しながら出会った愛する世界を絵本のなかに描き続けていきたいと願っています。

これらの絵本を一度整理したいとおもっていた矢先、大垣図書館のホームページのリニューアルの機会に快く承諾いただけ、図書司書さんや出版社の協力を得て、私のふる里の図書館でこのページを実現できたこと、たいへん幸せに思います。

2018年7月 市川里美

里美さんからのメッセージ

新作『しっかりママにつかまって!』によせて 《コロナ禍とオランウータン》――市川里美

2019 年の夏、ペルーのアマゾン地帯に1か月旅行したあと、世界にコロナ・ウイルスが発生、翌年にはコロナの波は何度も押し寄せ、旅行どころか日常の外出も制限を受ける始末です。次のボルネオへの旅の計画をくじかれていた私は、コンピューターの前に座ってボルネオに住むオランウータンに関するビデオを見ることにしました。そこには、それまで知らなかった国の状態、人々の暮らし、住む動物たちの実態が映し出されています。世界でもっとも古いといわれるボルネオの熱帯のジャングルが、日々ものすごい速さで破壊されています。木材として売られるか、焼かれて灰となった森は、その後見渡す限り、パーム油をとるためのアブラヤシの林と化しています。食べるものもなく、住む木もなくなった動物たちは、路頭に迷うしかありません。また、オランウータンの赤ちゃんをペットとして売りとばす商売もあるとか。木の上の親子のオランウータンを狙い撃ち、落ちてくると、ママにしがみついている赤ちゃんを引きはがして奪う、「人間」という生き物がいるのです。何が起こっているのかわからない赤ちゃんは、「なぜ?なぜ?」と泣き叫ぶばかりです。

オランウータンの子どもは、ママなくして生きていけません。母親のすることを見ながら、日々森で生きることを学んでいくからです。ママをなくしたオランウータンの子どもを育てる孤児院がボルネオやスマトラにあり、そこでの様子もビデオで見ることができます。オランウータンの子どもはまさに《めちゃくちゃに》愛らしく、あのまるくつぶらな目に出会うと、誰もが心が通じ合ったような気になるのです。また、残り少なくなったけれど、幸運にも今も自然の森に住む親子の、愛情深いしぐさややりとりの場面では、ママのすることをじっと見ている子どもの表情に目が吸いつけられ、ただ感動してしまいます。「私たちと全く同じだ!お母さんの愛は少しも変わらない!」と。そのうち画面をスケッチし、絵本を創作してみようと思いたちました。この愛らしい動物のことをもっとみんなに知ってもらいたい…そしてこれ以上、人間はかれらの生きる場所を奪ってはならない…と。

2018 年の4月、ウクライナのキーウの学校を訪れたことがあります。後になって、戦争になるなど思ってもいませんでした。その時子どもたちと一緒に描いた絵を見ながら、あの子どもたちは今頃どうしているのだろうかと胸が痛みます。大人の勝手な振る舞いを理解できるはずがありません。「なぜ?なぜ?」と泣き叫ぶばかりでしょう。

2022 年3月18 日 パリにて   市川里美

2021年6月 アマゾン川のほとりに住む人たちを訪ねて
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2020年8月 キルギスの草原で
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市川里美の絵本

新刊 しっかりママにつかまって!
- ボルネオ島のおはなし ―

出版社:BL出版
出版年:2022年6月

ボルネオ島に住む女の子リンバは、森でオランウータンの親子に出会いました。

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カイマンのダンス 
ーアマゾンのおはなしー

出版社:BL出版
出版日:2021年6月20日

ローザとかぞくは、アマゾン川のほとりにすんでいて、生きるためにひつようなものは、しぜんのなかからとってきてくらしているんだ。

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こうまのマハバット

出版社:BL出版
出版日:2020年7月1日

ジャミーラはキルギス村のおんなのこ。この夏はじめて、おじいちゃんとおばあちゃんのすむ山ですごすことになり、わくわくしています。

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メリークリスマス

1983年に富山房から出ていたものに加筆・訂正された楽しい絵本です。18か国(イギリス・アメリカ・ドイツ・オランダ・ポーランド・チェコ・スロバキア…

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ハナちゃんのトマト

市川さんの郷里が描かれた絵本です。 トマトの苗をおばあちゃんと一緒に育てるハナちゃん。台風がきてこわい思いをするハナちゃん。

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市川里美の年譜